大分県の気候・水文

1. 降水の分布と気候区分

日本列島の気候は、本州中央部を走る脊梁山脈によって、日本海沿岸型と太平洋沿岸型とに大別される。前者は、冬の北西季節風の影響を強く受けて冬季に降水量や降水日数が多く、後者は、夏季に太平洋からの湿気が流入して雨が多く、冬季には乾燥した晴天が続くタイプである。西日本には、中国山脈と四国山脈に挟まれた瀬戸内海があり、その沿岸部は瀬戸内型の気候で、年間を通じて降水量が少ないのが特徴である。大分県は瀬戸内海の西端に位置し、背後には九州山地が聳えるという地理的・地形的条件によって、気候区分の上では瀬戸内型から隣接する他の型への「遷移域」にあたる。 図1は大分県の年平均降水量の分布を示す。それによると、降水量の少ない地域が周防灘から別府湾の沿岸に位置し、年間平均1500~1600ミリである。一方、県境の九州山地に向けては、2500~3000ミリに達する多雨域となっている。海抜高度100mの増加についての、年平均降水量の増加は100~150ミリである。これら多雨域は、大野川や大分川、山国川など主要河川の源流域として、豊富な水資源を涵養する。 大分県の気候区分は、降水量の年平均値の分布と降水日数の年変化パターンとによって行うことができる。まず、瀬戸内型気候の限界線として、年平均1800ミリの等降水量線をとるならば、図2の線ABのように、本耶馬渓町から院内町、別府市の鶴見岳東麓を通り、大野川中流域から臼杵半島に抜ける。この線の北東側を瀬戸内型、南西側を非瀬戸内型とすることができる。また、1月の平均降水日数は、北西季節風の影響の大きい大分県北西部で多く、10~12日に達するが、県南東部では5~6日と少なく、冬に晴天日が多い。この対照的な両地域の境界線は、図2の線CDで示すように、国東半島の東岸(大分空港付近)と竹田市付近を結んで走り、この線の北西側は日本海沿岸型、南東側は太平洋沿岸型の性格が強い。

図1.大分県の年平均降水量分布(ミリ)
図1.大分県の年平均降水量分布(ミリ)
図2.大分県の気候区分
図2.大分県の気候区分

このように大分県の気候は、図2に示す2本の線ABとCDとによって、次の4つの気候区に分類される。

  • 瀬戸内型(Ⅰ)・・・中津平野から国東半島,別府市の沿岸部を含む。年間降水量は1800ミリ以下で夏季は干ばつが起こりやすいが、冬は曇りがちであり、積雪もしばしば見られる。
  • 瀬戸内型(Ⅱ)・・・大分市から大野川の中流域および臼杵市を含む。年降水量は1800ミリ以下。冬季の天候は比較的よい。
  • 南海型・・・津久見市以南の南海部郡および大野郡の南部を含む。年降水量は1800ミリ以上であり、高さ1000m以上の山岳地域では3000ミリを超える。夏季に雨が多く、特に台風時には大雨が降りやすい。冬季には乾燥した晴天が持続する。
  • 九州山地型・・・県西部から北西部にかけての内陸部。山岳地域は特に降水量が多く、年間3000ミリを超える。梅雨期には豪雨が降りやすいが、台風による雨量は比較的少ない。冬季には季節風の影響で降水日数が多く、寒波襲来時にはしばしば積雪を見る。

2. 気温の分布と変動

図3.年平均気温と高度の関係
図3.年平均気温と高度の関係

広がり100km程度のスケールの大分県では、気温の分布は海抜高度によってほぼ決まる。図3に示すように、高度100mの増加につき平均気温の低下は約0.6℃であって、自由大気中の気温減率とほぼ一致している。しかし、日中の最高気温および明け方の最低気温の減率は100mにつき、それぞれ約0.8℃および約0.4℃であり、昼夜の大気の安定度に違いが見られる。気温の日較差は、高度100mの増加につき約0.4℃減少する。 図4は各地の年平均の日最高気温と日最低気温によって、気温の分布と日変化の特性を比較したものである。それによると、気候のタイプは、気温の日較差によって沿岸型と内陸型とに分けられる。年平均の気温日較差は、沿岸部で6~8℃の程度であるが、内陸盆地では10~11℃に達する。沿岸型の場合、年平 均気温については沿岸海水温度の影響がみられる。蒲江や佐伯などで気温が高いのは、豊後水道を北上する黒潮暖流の影響であり、杵築や中津で低いのは、周防灘の水温が低いことによる。一方、盆地型では海抜高度が低いと夏季の暑さが厳しく、高度が高いと冬季の寒さが厳しい。図4において、日田(高度80m)と湯布院(450m)の関係がこのことを示す。 周防灘や別府湾などに面した沿岸部では海陸風が卓越する。昼間は、海から吹き込む風が内陸に向けて暖まり(海風)、8~10kmほど吹走してほぼ一定の気温に落ちつく。夜間には、海岸から8~10kmほど入った山沿いから、冷えた空気が海岸部に向かって吹き出しながら暖まる(陸風)。こうして、気温の日較差から見た沿岸部と内陸部の境界は、海岸線から8~10km入ったあたりにある。

図4.各地の気温日変化特性
図4.各地の気温日変化特性

風が弱く快晴の夜間、気温はごく局地的な地形の影響を大きく受ける。盆地では、放射によって冷えた空気が100m程度の厚さで低地に停滞し、上空の暖気との間に気温の逆転層を形成する。秋季には、地面に接したこの冷気層内にしばしば底霧が発生する。一方、盆地の底から150~250mほど上がった山腹では、低地より3~5℃ほど気温の高い「温暖帯」が形成されやすい。湯布院、玖珠、日田、竹田、宇目などの盆地の底から丘陵地に移行するところでは、その典型的な例がみられる。

3. 水文環境

くじゅう連山や祖母傾山系、津江山系など、大分県の主要河川の源流域は、いずれも年平均降水量が2300~3000ミリを超える多雨域である。表1は5つの主要河川の集水域における年間の水収支を示す。例えば、大分県内最大の河川である大野川の集水域(面積1381k㎡)では、年平均として降水量は2160ミリ、蒸発量は680ミリそして流出高1480ミリである。日平均流出量に換算すると560万Kとなる。年降水量に対する年流出高の比である流出率は0.68であって、降水量の約2/3が河川流出、残りの1/3が蒸発である。大分川や山国川など他の河川の水収支成分もほぼ同様である。また、流域面積と日流量の間には比例関係が成り立ち、各河川を平均した比流出量は約4300K/日/k㎡である。これは4.3ミリ/日の水源供給量によって賄われる。

河川名 流量
観測地点
流域面積
(平方km)
流量
(万トン/日)
流域年平均
降水量(ミリ)
年流出高
(ミリ)
年蒸発量
(ミリ)
山国川 下唐原 483 180 2020 1390 630
筑後川 小渕 1137 500 2230 1600 630
大分川 府内大橋 601 265 2300 1620 680
大野川 白滝橋 1381 560 2160 1480 680
番匠川 番匠橋 278 130 2430 1700 730

水収支成分の季節変化を大分川と山国川について示したのが図5である。

図5.河川の流域水収支成分量の年変化
図5.河川の流域水収支成分量の年変化

この図では、降水量から蒸発量を差し引いたものが地下水への供給量であり、この供給量に対する流出量の比較を示している。大分川の場合、6~7月に供給量が流出量より多くなって地下への水の貯留が増加し、10~12月頃には流出が供給より多くなって地下貯留からの放出が進む。供給量と流出量それぞれの変化の間には3~4ヵ月のずれがある。大野川の水収支にも同様な傾向がある。一方、山国川や番匠川の場合、供給量と流出量とはほぼ平行して変化しており、雨水からの供給は地下に貯留されることが少なく、直ちに流出することを示している。山国川や番匠川は、大野川や大分川と比べて流出量の季節変動が大きく、特に秋から冬にかけての乾燥期には、流量がかなり減少する。集水域の地形が急峻で、地質が古くて堅い場合、地下水の浸透性が低く貯留能力が低下するためと考えられる。

源流域に降った雨が地下に貯えられて後湧き出すまでの時間(滞留時間)は、降水量の季節変化に対して応答する湧出量の季節変化の大きさから推定することができる。たとえば、全国名水百選に選定された庄内町の男池湧水群全体として、年平均湧出量36.7K/分に対して季節的変動量は±12.7K/分である。このことに注目すると、黒岳付近の集水域に浸透する地下水の滞留時間は半年ないし1年程度と算定される。 このような調査を大分県の山岳源流域に拡張すると、河川源流を涵養する降雨-浅層地下水の循環は、1年程度またはそれ以内の比較的短期間のサイクルで行われている場合が多いようである。しかし、竹田盆地に湧出する名水のような規模の大きな地下水系では、滞留時間は数年程度と考えられる。

4. 気候の長期変化

近年、人間の活動による気候変化が、地球温暖化現象として注目されるようになった。これは単に気温上昇だけにとどまらず、異常気象の頻発や降水分布の変化、海水レベルの上昇などを通じて、生態系に甚大な影響を及ぼすことが懸念される。

図6.大分市の気温経年変化
図6.大分市の気温経年変化

大分地方気象台の110年余の観測資料により、年平均の日最高気温・日最低気温の経年変化を図6に示す。それによると大分市の年平均日最低気温は、この100年間に約2°C高くなり、特に最近25年間では約1℃の上昇を示している。これは都市化の進展によるローカルな現象であり大分市中心部などでは、晴れた夜間、郊外よりも4~6℃ほど高く、ヒートアイランド現象が顕著に認められる。しかし、郡部の田園地域では、夜間の気温上昇はあまり認められない。一方、昼間の最高気温の年平均値については、大分市でも田園地域でも、この100年間に約0.6℃の上昇がみられ、グローバルな地球温暖化の速さに近い値である。 地球温暖化による気候帯の北上速度は、日本付近では100年間で200~300kmと推定される。生態系は北上へのストレスを受けていると思われる。 大分市の年降水量については、約40年の周期のブリュックナー変動が認められる。すなわち、この100年ほどの間、平均値1660ミリを中心として±150ミリで変動し、1910年頃と1950頃がピークであった。1990年代のピークはやや不明瞭な感じである。 さらに、より長期の降水量のトレンドを見ると、最近の100年間につき約100ミリという年平均降水量の増加傾向が検出される。大分市の年平均降水量は20世紀初頭には約1600ミリであったが、現在では1700ミリに達している。降水量のこの増加傾向は、地球温暖化と連動しており、大分県全域はもちろん、かなり大きなスケールで広がっていると思われる。

謝辞

本報文の作成にあたり、大分地方気象台及び建設省大分工事事務所より多くの資料のご提供をいただいた。ここに記して深甚の謝意を表する。

参考文献

川西 博:1994、大分県の気象探訪 大分合同新聞文化センター編
川西 博・西田 實:1999、くじゅう黒岳地域の気候・水文 くじゅう黒岳地域自然環境学術調査報告書 大分県
川西 博・西田 實:2000、藤河内渓谷周辺地域の気候・水文 藤河内渓谷周辺地域自然環境学術調査報告書 大分県

(大分大学名誉教授 川西 博)

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※このページの掲載内容は、「レッドデータブックおおいた(2001)」によっています。