シダ植物

1 種数等について

これまで大分県で生育が確認されているシダ植物387種(種・変種・雑種)のうち、約130種を選定対象種として見直し調査を行った。「レッドデータブックおおいた2011」(以下、「前RDB」とする)の選定種101種のうち、72種はランクの変更はなく、6種はランクを上げ、23種はランクを下げ、このうち11種は選定種から除外した。また、10種を新たに選定種に追加した。これらの変更により、選定種の合計は100種となり、前RDBと比べ1種減少した。 ※県内分布に記載されている地域名は大分県野生植物地域区分(荒金正憲:1998)】に従った。

2 選定種に追加した種について

今回の調査でランク外から新たにレッドリストに追加した種の合計は10種で、オオバミヤマノコギリシダをⅠA(CR)に、アツギノヌカイタチシダマガイをⅠB(EN)に、アカハナワラビ、ヒメハイホラゴケ、ミヤマクマワラビ、ヤノネシダを準(NT)に、コヒロハハナヤスリ、オオアカウキクサ、タカサゴシダ、イシガキウラボシを情報不足(DD)にリストアップした。

3 ランクを上げた種について

前RDBより個体数の減少等によりランクを上げた種は6種あり、ホソバショリマを ⅠA(CR)から絶滅に、ツクシヤブソテツをⅡ(VU)からⅠB(EN)に、デンジソウを情報不足(DD)から絶滅(EX)に、サカバサトメシダとイズヤブソテツを情報不足(DD)からⅠA(CR)に、ヌカイタチシダマガイを情報不足(DD)からⅠB(EN)にランクを上げた。

4 ランクを下げた種について

前RDBからランクを下げた種は23種あり、このうち11種はランク外と判定した。ⅠAからⅠBに下げた種はシナミズニラ、ⅠAからⅡに下げたのはオオフジシダとエビガラシダの2種、ⅠAから情報不足に下げたのはヤワラハチジョウシダとコタニワタリとホテイシダの3種、ⅠBからⅡに下げたのはイワヤシダとヒメサジランとオシャグジデンダの3種、ⅠBから情報不足に下げたのはアイコハチジョウシダとアカウキクサの2種、ⅠBからランク外に判定したのはハマハナヤスリとハチジョウシダモドキの2種、Ⅱから準に下げたのはツクシイヌワラビ、Ⅱからランク外に判定したのはミズスギ、エダウチホングウシダ、ツクシノキシノブの3種、準からランク外に判定したのはマツバラン、オオコケシノブ、フジシダ、ヒメウラジロ、ハコネシダの5種、情報不足からランク外に判定したのはミドリヒメワラビである。

5 生育・生息地に大きな変動があった種について

今回、ホソバショリマとデンジソウの2種を絶滅(EX)とした。ホソバショリマは、大分県では中津市山国町の山地にある小渓谷内の2箇所に生育していた。谷下流にあった生育地は砂防ダムが建設されて消滅し、そこから約1km上流にあった生育地では、10年前の調査ではシカの食害を受け、小さな個体がわずかに残っていたが、今回の調査では、近年の豪雨被害で生育していた谷沿いが完全に土砂で埋まり、生育する個体を見い出すことができなかった。デンジソウは、過去に大分市、別府市、由布市で採集された標本はあるが生育地はすでに消滅しており、1994年に宇佐市内のため池で確認したのを最後に、県内では生育が確認されていない。 今回の調査では、ニホンジカによる食害の影響が顕著で、生育地や個体数が大きく減少したものが数多くみられた。新たに選定種に挙げたミヤマクマワラビ(NT)は、くじゅう山系ではまだその影響は小さいようであるが、犬ヶ岳山系ではほとんど見られなくなった。選定種に挙げてはいないが、メシダ科やオシダ科のもので個体数の減少が著しいものが多くみられる。逆に、シカがあまり好まないイノモトソウ科やコバノイシカグマ科のものでは、個体数を増やしているものもある。 石灰岩地だけに分布するキドモトソウ(VU)や種子植物の選定種は、生育地となっている石灰岩の岩壁で頻繁にクライミングが行われており、個体数減少の要因になっている。ナンピイノデ(EN)は、生育地となっていた民有地のスギ植林の大部分が伐採され、多くの生育個体が失われた。ツクシオオクジャク(EN)やサカゲイノデ(EN)など、同様の経緯で減少したものもいくつかある。

6 その他特筆すべき事項について

環境省のレッドリスト(2020)で、NTのマツバランとVUのヒメウラジロは、大分県では生育地、個体数ともに多く、減少の危険性も小さいため、選定種から除外した。 今回「レッドデータブックおおいた2011」よりランクを下げた種が23種と多くなったのは、個体数が大きく増加したり、絶滅の危険性が小さくなった訳ではなく、調査が進み、複数の新たな生育地が判明したことにより、定量的評価の観点からランクを下げたことがその要因である。

7 参考文献等

和名、学名、種の配列

  • 海老原 淳(2016)日本産シダ植物標準図鑑Ⅰ.学研プラス.
  • 海老原 淳(2017)日本産シダ植物標準図鑑Ⅱ.学研プラス.

その他

  • 岩槻 邦男 編(1999)日本の野生植物(新装版).平凡社.
  • 大分県植物誌刊行会(1989)新版 大分県植物誌.大分県植物誌刊行会.
  • 荒金 正憲・辻 寛文(2011)APG分類体系による大分県高等植物目録.佐伯印刷.
※ページ内のカテゴリー表記についてはこちらをご覧ください。