大型水生甲殻類

1 種数等について

選定対象種の定義を「1)原則として、雑種・品種および外来種・移入種・飼育種・養殖種などを除いた種・亜種・変種。2)生活史の全てまたは一部を大分県内の陸域・淡水域で過ごす種および陸域と極めて密接な関係を持つ海岸域の種とする。」と定め、この条件に当てはまる大型水生甲殻類約140種を選定対象種とし、調査を行った。
結果、レッドデータブックおおいた2011年版の選定種19種のうち、14種はランクの変更はなく、1種はランクが上がり、2種は選定種から削除した。また、種群(形態的に酷似した種の総称)としていたノコギリガザミ属の3種を分けて選定したこと、新たに2種を選定したことで、選定種の合計はレッドデータブックおおいた2011年版から2種増加し、21種となった。

※県内分布に記載されている市町村名は【大分県市町村図】に、水系名および海域名は【大分県一級河川水系図・海域区分図】にそれぞれ従った。

2 選定種に追加した種について

ハマガニ:準絶滅危惧(NT)

河川工事、護岸工事などによるヨシ原の減少・消失によって生息環境が悪化した場合、絶滅危惧種になる可能性がある。

オサガニ:絶滅危惧Ⅱ類(VU)

沿岸域の護岸工事や干潟埋め立て,環境汚染による干潟の泥質化などにより全国的に減少傾向にある。本県においても個体群密度が低く、絶滅の危険が増大している。

3 ランクを上げた種について

シオマネキ:絶滅危惧Ⅱ類(VU)→絶滅危惧ⅠB類(EN)

埋め立て工事や掘削工事などによる干潟の減少に伴い生息場所が狭められており、限定された場所でのみ生息している。個体数は明らかに減少しており、絶滅の危険性が高い。

4 ランクを下げた種について

ヘイケガニ:絶滅危惧Ⅱ類(VU)→削除

毎年5~7月に底曳き網で数多く確認されており、本県においては絶滅の危機にないことが判明したため。

ヒメヤマトオサガニ:情報不足(DD)→削除

県南の佐伯市においては非常に個体数が多く、近似種のヤマトオサガニは少ない。一方、県央~県北にかけては本種は確認されずにヤマトオサガニが分布している。これらを踏まえると、両種には県南~県央に分布境界線があると考えられ、それぞれの生息地において個体数は多く、本県においては絶滅の危機にないことが判明したため。

5 その他のランク変動した種について

カブトエビ種群:地域個体群(LP)→情報不足(DD)

レッドデータブックおおいた2011年版では、筑後川水系流域水田・山国川水系流域水田に生息するアジアカブトエビTriops granaries を地域個体群(LP)に選定していたが、カブトエビ属の分類はいまだ整理されておらず現時点では種の同定が困難であること、カブトエビ属は県内全域に散在して生息していることから、カブトエビ属の総称を表す「カブトエビ種群」へと変更し、ランクは情報不足(DD)とした。

アカテノコギリガザミ:情報不足(DD)→準絶滅危惧(NT)

トゲノコギリガザミ:情報不足(DD)→準絶滅危惧(NT)

アミメノコギリガザミ:情報不足(DD)→準絶滅危惧(NT)

レッドデータブックおおいた2011年版では、県内に生息するノコギリガザミ属3種をまとめて「ノコギリガザミ種群」として情報不足(DD)に選定していたが、県内における分布状況が明らかになったため、分けて選定した。
3種とも個体数は少なく、河川改修などの影響を受けると生息環境の悪化が予想され、今後、絶滅危惧種になる可能性がある。

6 生息・生息地に大きな変動があった種について

選定種の主生息地において、個体群存続に関わるような大きな変動は認められないが、河川改修・護岸工事などは県内全域で随時行われており、埋め立て工事や掘削工事などによる干潟の減少や機能低下は徐々に進行している。シオマネキの個体数が明らかに減少していることなどからも、工事が選定種へ何らかの影響を与えている事は否めない。

7 その他特筆すべき事項について

『種群=形態的に酷似した種の総称』の扱いについて、前回のレッドデータブックおおいた2011年版ではノコギリガザミ属の総称を表す「ノコギリガザミ種群」を選定しており、今回の2022年版ではカブトエビ属の総称を表す「カブトエビ種群」を選定した。「分類が整理されていない」「生息状況の解明がされていない」などの理由から暫定的に『種群』として選定しており、次回の改定時に「分類が確立した」「生息状況が判明した」など、状況が変わっていた場合はそれぞれの種をしかるべきランクに選定、あるいは削除する。

8 参考文献等

和名、学名、種の配列

  • 国土交通省 水管理・国土保全局河川環境課(2021)河川水辺の国勢調査のための生物リスト令和3年度生物リスト,底生動物,2021年8月10日版.
    http://www.nilim.go.jp/lab/fbg/ksnkankyo/mizukokuweb/systemseibutsuListfile.htm

カブトガニの和名・学名

  • 西村三郎編著(1995)原色検索日本海岸動物図鑑【II】.保育社,大阪,663 pp.

ムラサキオカヤドカリの和名・学名

  • 三宅貞祥(1982)原色日本大型甲殻類図鑑(I).保育社,大阪,261pp.

トゲノコギリガザミの和名・学名

  • 日本ベントス学会編(2012)干潟の絶滅危惧動物図鑑 -海岸ベントスのレッドデータブック- .東海大学出版会,秦野, 285 pp.

分布記録、生息状況、生態など

  • 環境省自然環境局 生物多様性センター(2007)第7回 自然環境保全基礎調査 浅海域生態系調査(干潟調査)業務報告書,99 pp.
  • 環境省自然環境局 野生生物課(2017)環境省版海洋生物レッドリスト 【甲殻類】海洋生物レッドリスト,2017年3月21日.
    http://www.env.go.jp/press/files/jp/106405.pdf
  • 久保田信(2011)ムラサキオカヤドカリ(甲殻類,異尾類)の海岸での 本州初の幼生の放出の確認,日本生物地理学会会報,第66巻:253-256.
  • 三浦知之(2008)干潟の生きもの図鑑.南方新社,鹿児島,197pp.
  • 三宅貞祥(1982)原色日本大型甲殻類図鑑(I).保育社,大阪,261pp.
  • 三宅貞祥(1983)原色日本大型甲殻類図鑑(II).保育社,大阪,277pp.
  • 日本ベントス学会編(2012)干潟の絶滅危惧動物図鑑 -海岸ベントスのレッドデータブック- .東海大学出版会,秦野, 285 pp.
  • 西村三郎編著(1995)原色検索日本海岸動物図鑑【II】.保育社,大阪,663 pp.
  • 豊田幸詞/関慎太郎(2014)ネイチャーウォッチングガイドブック 日本の淡水性エビ・カニ 日本産淡水性・汽水性甲殻類102種.誠文堂新光社,東京,255pp.
  • 豊田幸詞(2019)日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑.緑書房,東京,339pp.
  • 吉﨑和美(2018)天草のカニ類 写真図鑑.一粒書房,愛知,199pp.

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