魚類・頭索類

1 種数等について

選定対象種の定義を「1)原則として、雑種・品種および外来種・移入種・飼育種・養殖種などを除いた種・亜種・変種。2)生活史の全てまたは一部を大分県内の陸域・淡水域で過ごす種および陸域と極めて密接な関係を持つ海岸域の種とする。」と定め、この条件に当てはまる魚類約110種、頭索類1種を選定対象種とし、調査を行った。
結果、レッドデータブックおおいた2011年版の選定種32種のうち、23種はランクの変更はなく、7種はランクが上がり、1種は選定種から削除した。なお、レッドデータブックおおいた2011年版で「チワラスボ」として選定していた種は、国内に生息するチワラスボ属魚類4種が混同されていたことが近年明らかとなり、うち2種が県内で確認できたためそれぞれ選定したこと、新たに10種を選定したことで、選定種の合計はレッドデータブックおおいた2011年版から10種増加し、42種となった。

※県内分布に記載されている水系名および海域名は【大分県一級河川水系図・海域区分図】に従った。

2 選定種に追加した種について

オオウナギ:絶滅危惧Ⅱ類(VU)

県内における生息地は限定的である。越冬に河床などの巣穴が重要だが、津久見市では2000年代に生育地の1つが3面コンクリート化で消滅するなど、今後も生息地の減少や消滅が懸念される。また、各生息地は狭い。周防灘に注ぐ水系では確認ができなくなっており、別府湾に注ぐ水系では生息地は特に狭く、河川改修などの環境改変に注意が必要である。

オオキンブナ:情報不足(DD)

ギンブナ(3倍体・雌性発生)とは異なり、2倍体である。県内各地には形態的に本種に同定される2倍体フナ類が散見されるが、分布域などは未整理である。分類学的・分子生物学的・生態学的な検討・整理が待たれる。国内外来種ゲンゴロウブナやその他フナ類と交雑のおそれがある。移植放流が最大の脅威となっている。

カネヒラ:絶滅危惧ⅠB類(EN)

県内では筑後川水系と周防灘に注ぐ水系に生息しているが、筑後川水系では確認地点が少なく局所的で2008年を最後に確認されなくなった河川がある。山国川水系では近年確認が困難になっている。環境改変により個体群絶滅の危険性が高まっており、生息環境や個体数に注意が必要である。

ゼゼラ:情報不足(DD)

県内では筑後川水系のみに分布し、既知の個体群は1つのみである。少なくとも1980年代までは筑後川水系の複数地点で確認されていたが,近年は確認されていない。福岡県同様に大分県内でも他地域個体群との交雑がおきている可能性があるが、現段階でその遺伝的特徴は明らかでない。調査研究の進展により、分布状況と遺伝的特徴が明らかとなることが期待される。

チュウガタスジシマドジョウ:情報不足(DD)

県内では1990年代に周防灘に注ぐ1水系から記録されているが、近年は確認されておらず、周防灘に注ぐ水系全体で確認のための調査が必要である。

クルメサヨリ:情報不足(DD)

1966年に国東半島伊美川で1個体の記録がある。2012年以降、番匠川の汽水域から河口域で記録があるが個体数は少ない。今後、生息状況把握のための調査が必要である。

チチブモドキ:準絶滅危惧(NT)

生息地のほとんどが小河川の汽水域であるが、小河川は河川整備により生息環境が急激に悪化することがあり、今後、絶滅危惧種になる可能性がある。黒潮に面した地域で見られる南方系魚類であるため、黒潮の影響を強く受ける県南部で散発的に記録があるが、いずれの生息地においても生息範囲は狭く、個体数は少ない。

ヒモハゼ:準絶滅危惧(NT)

底質環境の変化や砂泥干潟の有機汚濁が進むことで個体数の減少につながるおそれがあり、今後、絶滅危惧種になる可能性がある。河口干潟の砂泥底で確認されるが、個体数はいずれの地点においても少ない。。

ルリヨシノボリ:準絶滅危惧(NT)

本県を流れる五ヶ瀬川水系支川の一部上流部でしか記録されていない。海から遡上する通し回遊魚であり、堰や砂防ダムなどが設置されると遡上が阻害され、絶滅危惧種になる可能性がある。

ニクハゼ:準絶滅危惧(NT)

護岸工事や埋め立て、水質悪化の影響を受けることで、アマモ場が減少し生息環境が失われる危険があり、今後、絶滅危惧種になる可能性がある。県内に散在して生息しているが、アマモ場を主な生息場としており、番匠川水系ではコアマモ群落の消失とともに本種も確認できなくなった場所もある。

3 ランクを上げた種について

カワヒガイ:絶滅危惧Ⅱ類(VU)→絶滅危惧ⅠB類(EN)

県内では筑後川水系のみに生息するが、個体群密度は低く生息地は局所的で ある。今後、護岸・護床工事による生息適地減少および産卵に必要な二枚貝の減少が進行した場合、絶滅の危険性が高い。生息域において継続的に調査が行われているにも関わらず、直近10年間で水路2地点計10個体しか確認されていない。また2地点は異なる水路で、堰等により分断されるため互いに交流のない集団である。

ツチフキ:絶滅危惧ⅠB類(EN)→絶滅危惧ⅠA類(CR)

県内では筑後川水系のみに生息しているが、底質悪化や河川環境の変化で本種の生息に必要な生息環境が減少している。生息域において継続的に調査が行われているにも関わらず、直近10年間で全く生息が確認されておらず、絶滅の危険性が極めて高い。

降海型イトヨ:情報不足(DD)→絶滅(EX)

周防灘に注ぐ水系および大野川水系において過去の生息記録があるが、50年 近く生息が確認できていないことから、本県ではすでに絶滅したと考えられる。

アカメ:情報不足(DD)→準絶滅危惧(NT)

九州沿岸において繁殖・稚魚の成育に必要な藻場の消失が著しい地域があり、生息環境が悪化傾向にある。本種の個体群維持のためには本県における生息環境を維持していく必要がある。

ウツセミカジカ(カジカ小卵型;両側回遊型→中卵型を含む):情報不足(DD)→絶滅(EX)

複数河川において過去の生息記録があるが、50年以上生息が確認できていないことから、本県ではすでに絶滅したと考えられる。

タネハゼ:情報不足(DD)→準絶滅危惧(NT)

河口域のカキ殻や転石の下といった限定的な環境を好むため、河川工事により転石などが一度取り除かれると生息環境の回復は難しい。今後生息地が減少した場合、絶滅危惧種になる可能性がある。

クロコハゼ:情報不足(DD)→準絶滅危惧(NT)

県内の生息地は限定的で個体数も少なく、護岸工事や埋め立てなどの影響を受けると個体群の維持が困難となり絶滅危惧種になる可能性がある。

4 ランクを下げた種について

セボシタビラ:情報不足(DD)→削除

レッドデータブックおおいた2001年版(第1次)の調査から今回の調査(第3次)まで一度も生息が確認されておらず、過去に県内に分布したことを明示する写真や標本にも行き当たらなかったため。

5 その他のランク変動した種について

コガネチワラスボ:絶滅危惧Ⅱ類(VU)→情報不足(DD)

国内におけるチワラスボ属魚類は長らくチワラスボTaenioides cirratus 1種とされてきたが、チワラスボ属の分類学的再検討によって国内に4種生息していることが明らかになった。本種はそのうちの1種である。レッドデータブックおおいた2011年版ではチワラスボTaenioides cirratus として絶滅危惧Ⅱ類(VU)に選定していた。しかし、これは県内に生息することが確認された本種とチワラスボTaenioides snyderi の2種を合わせた評価であり、その詳しい生息状況に関する知見は乏しい。したがって、本種のみでの評価は現時点では困難であるため、情報不足(DD)へ変更した。今後、チワラスボ属2種を対象とした総括的な調査が必要である。

チワラスボ:絶滅危惧Ⅱ類(VU)→情報不足(DD)

国内におけるチワラスボ属魚類は長らくチワラスボTaenioides cirratus 1種とされてきたが、チワラスボ属の分類学的再検討によって国内に4種生息していることが明らかになった。本種はそのうちの1種である。レッドデータブックおおいた2011年版ではチワラスボTaenioides cirratus として絶滅危惧Ⅱ類(VU)に選定していた。しかし、これは県内に生息することが確認された本種とコガネチワラスボTaenioides gracilis の2種を合わせた評価であり、その詳しい生息状況に関する知見は乏しい。したがって、本種のみでの評価は現時点では困難であるため、情報不足(DD)へ変更した。今後、チワラスボ属2種を対象とした総括的な調査が必要である。

6 生息・生息地に大きな変動があった種について

筑後川水系に生息する種:カゼトゲタナゴ・カワヒガイ・アリアケスジシマドジョウ・アリアケギバチ・オヤニラミ・カジカ(カジカ大卵型;河川陸封型)

近年の豪雨に伴う河川工事は広域かつ長期にわたっており、豪雨自体の影響や今後の河川整備と合わせて留意が必要である。

7 その他特筆すべき事項について

  • レッドデータブックおおいたを通じて初めて、魚類の絶滅(EX)ランクに降海型イトヨ・ウツセミカジカ(カジカ小卵型;両側回遊型→中卵型を含む)の2種を選定した。いずれの種も、標本や文献から50年ほど前には生息していたことが伺われる種である。

8 参考文献等

和名、学名、種の配列

<全体>
  • 本村浩之(2021)日本産魚類全種目録,これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名,Online ver. 11.https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff /motomura/jaf.html
  • 中坊徹次 編(2013)日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会,秦野,2530pp.
<シマドジョウ属の種の配列>
  • 細谷和海 編・監修(2015)山溪ハンディ図鑑15 日本の淡水魚.山と溪谷社,東京,528pp.

降海型イトヨの和名・学名

  • 細谷和海(1993)トゲウオ科.pp. 471–472, 1291–1292.中坊徹次 編,日本産魚類検索 全種の同定 初版.東海大学出版会,東京.
  • 細谷和海(2000)トゲウオ科.pp. 513–514, 1506–1507.中坊徹次 編,日本産魚類検索 全種の同定 第二版.東海大学出版会,東京.

カジカ属の和名・学名

  • 中坊徹次・甲斐嘉晃(2013)カジカ科.pp. 1160–1188, 2061–2067.中坊徹次 編,日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会,秦野.

チワラスボの和名・学名

  • Murdy, E. O. (2018) A redescription of the gobiid fish Taenioides purpurascens (Gobiidae: Amblyopinae) with comments on, and a key to, species in the genus. Ichthyological Research, 65:454–461.

コガネチワラスボの和名・学名

  • 是枝伶旺・本村浩之(2021)コガネチワラスボ(新称)とチワラスボ(ハゼ科チワラスボ属)の鹿児島県における分布状況,および両種の標徴の再評価と生態学的新知見,Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 10:75–104.

ヒガシナメクジウオの和名・学名

  • 日本ベントス学会編(2012)干潟の絶滅危惧動物図鑑 -海岸ベントスのレッドデータブック- .東海大学出版会,秦野, 285 pp.

分布記録、生息状況、生態

  • 藤田朝彦(2015)スナヤツメ(北方種および南方種).pp. 18–19.細谷和海 編・監修(2015)山渓ハンディ図鑑15 日本の淡水魚.山と渓谷社,東京.
  • 堀川まりな・中島 淳・向井貴彦(2007)九州北部のゼゼラにおける在来および非在来ミトコンドリアDNAハプロタイプの分布,魚類学雑誌54(2):149-159.
  • 星野和夫・松尾敏生・細谷和海(1996)九州におけるアカザの分布,魚類学雑誌43(2):105–108.
  • 細谷和海 編・監修(2015)山溪ハンディ図鑑15 日本の淡水魚.山と溪谷社,東京,528pp.
  • 川那部浩哉・水野信彦・細谷和海 編・監修(2001)改訂版 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 第3版.山と溪谷社,東京,719pp.
  • 是枝伶旺・本村浩之(2021)コガネチワラスボ(新称)とチワラスボ(ハゼ科チワラスボ属)の鹿児島県における分布状況,および両種の標徴の再評価と生態学的新知見,Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 10:75–104.
  • Kurita, T. and Yoshino, T. (2012) Cryptic diversity of the eel goby, genus Taenioides (Gobiidae: Amblyopinae), in Japan. Zoological Science, 29:538–545.
  • 益田 一・尼岡邦夫・ 荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫 編(1988)日本産魚類大図鑑. 東海大学出版会,東京,466pp.
  • 宮地傳三郎・川那部浩哉・水野信彦 編(1976)原色日本淡水魚類図鑑. 保育社,大阪,462pp.
  • 宮島尚貴・立川淳也・星野和夫(2021)大分県におけるアカメ Lates japonicusの記録,大分自然博物誌‐ブンゴエンシス‐,4:14-21.
  • 水野信彦(1968)国東半島・伊美川の魚相,関西自然科学(19):28-31.
  • 本村浩之(2021)日本産魚類全種目録,これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名,Online ver. 11.https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff /motomura/jaf.html
  • Murdy, E. O. (2018) A redescription of the gobiid fish Taenioides purpurascens (Gobiidae: Amblyopinae) with comments on, and a key to, species in the genus. Ichthyological Research, 65:454–461.
  • 中坊徹次 編(1993)日本産魚類検索 全種の同定 初版.東海大学出版会,東京,1417pp.
  • 中坊徹次 編(2000)日本産魚類検索 全種の同定 第二版.東海大学出版会,東京,1748pp.
  • 中坊徹次 編(2013)日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会,秦野,2530pp.
  • 中坊徹次 編・監修(2018)小学館の図鑑Z 日本魚類館.小学館,東京,524pp.
  • 中島 淳(2017)日本のドジョウ.山と溪谷社,東京,224pp.
  • Nakajima, J. (2012) Taxonomic study of the Cobitis striata complex (Cypriniformes, Cobitidae) in Japan. Zootaxa, 3586:103–130.
  • 日本ベントス学会編(2012)干潟の絶滅危惧動物図鑑 -海岸ベントスのレッドデータブック- .東海大学出版会,秦野, 285 pp.
  • 大分県(1978)第2回自然環境保全基礎調査 動物分布調査報告書(淡水魚類),大分県,19pp.
  • 小野春雄(1985)三隈川水系の魚相,三隈川の自然調査報告書,郷土日田の自然調査会,pp.101-113.
  • 太田啓佑・谷口倫太郎・金光隼平(2021)高知県物部川水系で採集されたゼゼラ Biwia zezera の記録,伊豆沼内沼研究報告(15):131-137.
  • Shiogaki, M. and Dotsu, Y. (1976) Two New Species of the Genus Luciogobius (Family Gobiidae) from Japan. Japanese Journal of Ichthyology, 23(3): 125–129.
  • 高野裕樹・星野和夫(2021)大分県におけるオオウナギの記録と分布現況,および生息地の水温特性,魚類学雑誌 DOI: 10.11369/jji.20–032.
  • 武内啓明(2015)クロコハゼ.p. 476.細谷和海 編・監修(2015)山渓ハンディ図鑑15 日本の淡水魚.山と渓谷社,東京.
  • 立川淳也・宮島尚貴・高野裕樹(2018)第9章 魚類,佐伯の豊かな自然~佐伯市自然環境調査報告書~,佐伯市環境対策課,pp.351-405.
  • Yamazaki, Y., Goto, A., Byeon, H. and Jeon, S. (1999) Geographic distribution patterns of the two genetically divergent forms of Lethenteron reissneri (Pisces: Petromyzontidae). Biogeography, 1: 49-56.

※ページ内のカテゴリー表記についてはこちらをご覧ください。