1 種数等について
これまで大分県で生息が確認されている昆虫類9969種のうち、314種を選定対象種として、見直し調査を行った。結果、レッドデータブックおおいた2011で記載された絶滅のおそれのある昆虫類(選定種)183種のうち、129種は前回からランクの変更はなく、27種はランクが上がり、13種はランクが下がり、16種は選定種から除外された。また、71種が新たに選定種に追加されたことで、選定種の合計は238種となった。
※県内分布に記載されている市町村名は
【大分県旧市町村図】 に従った。
2 選定種に追加した種について
今回の調査で新規選定種として、アオヘリアオゴミムシ、コミズスマシ、コセスジダルマガムシの3種をⅠA(CR)に、キボシチビコツブゲンゴロウ、ヒメミズスマシ、ニッポンミズスマシ、コオナガミズスマシ、クロシオガムシ、オオズウミハネカクシの6種をⅠB(EN)に、スナハラゴミムシ、 キベリマルクビゴミムシ、 セマルオオマグソコガネ、 セマルヒメドロムシ、 イソジョウカイモドキの5種をⅡ(VU)に、アオヤンマほか34種を準(NT)に、オオメノミカメムシほか19種を情報不足(DD)に追加した。合計71種を新規に選定種に追加した。
3 ランクを上げた種について
前回の調査時よりも生息個体数や生息地点の減少など生息状況が悪化した14種と生息情報の集積等で情報不足(DD)からランクが変更された種9種を合わせて以下の23種のランクを上げた。
絶滅(EX)に上げた種
カワラハンミョウ九州亜種(カワラハンミョウ)、スジゲンゴロウ、ツメアカナガヒラタタマムシの3種は情報不足(DD)から絶滅(EX)にランクを変更した。
ⅠA(CR)に上げた種
モートンイトトンボ、ヒメシロチョウ、スジボソヤマキチョウの3種はⅠB(EN)からⅠA(CR)に、ホンサナエ、コガタガムシの2種はⅡ(VU)からⅠA(CR)にランクを変更した。
ⅠB(EN)に上げた種
コバネアオイトトンボ、オオキトンボ、オオヒョウタンゴミムシ、ツヤマグソコガネ、クロモンマグソコガネの5種はⅡ(VU)からⅠB(EN)に、オオイトトンボとヨツボシカミキリを準(NT)からⅠB(EN)に、マルガタゲンゴロウ、アオタマムシ、オオルリハムシ、ヒサマツミドリシジミを情報不足(DD)からⅠB(EN)にランクを変更した。
Ⅱ(VU)に上げた種
オツネントンボ、ムツボシツヤコツブゲンゴロウ、ヒメケシゲンゴロウ、ムネホシシロカミキリの4種は準(NT)からⅡ(VU)にランクを変更した。
準(NT)に上げた種
ズイムシハナカメムシ, フタモンアラゲカミキリを情報不足(DD)から準(NT)にランクを変更した。
4 ランクを下げた種について
今回の調査で多くの個体を確認することができた種や新たな生息地を複数確認できた種はランクを下げた。ランクを下げた種は以下の22種である。
ⅠB(EN)に下げた種
ギョウトクテントウ、カツラネクイハムシ、スゲハムシ、オオルリシジミ九州亜種の4種は前回ⅠA(CR)からⅠB(EN)にランクを変更した。
Ⅱ(VU)に下げた種
キバネアシブトマキバサシガメとエサキアメンボの2種はⅠB(EN)からⅡ(VU)にランクを変更した。
準(NT)に下げた種
クロチビタマムシはⅠB(EN)から準(NT)に、セアカオサムシ、コガタノゲンゴロウ、クビアカナガクチキ、シータテハ、オオムラサキ、ウラナミジャノメ日本本土亜種の6種はⅡ(VU)から準(NT)にランクを変更した。
ランク外に下げた(削除した)種
以下の13種は今回の調査を通じ、近い将来において絶滅のおそれがないと推定されるほどの個体数や生息地が確認されたため、ランク外とした。コオイムシはⅡ(VU)からランク外に、ネアカヨシヤンマ、オオルリボシヤンマ、アシブトマキバサシガメ、ベニツチカメムシ、ツヤヒラタガムシ、ネブトクワガタ本土亜種、アカマダラセンチコガネ、ゴホンダイコクコガネ、エノキミツギリゾウムシ、クロバネツリアブは準(NT)からランク外に、ビロウドサシガメ、クロバアカサシガメは情報不足(DD)からランク外へと変更した。
なお、ハラアカマルセイボウは過去に確実な生息情報が確認できなかったため情報不足(DD)からランク外へ、ヒメウンモンクチバとブンゴキヨトウの2種は最新情報から遇産種と位置付けられたため、情報不足(DD)からランク外へと変更した。
5 生育・生息地に大きな変動があった種について
ハッチョウトンボは既知の生息適地のほとんどが失われ、絶滅の恐れが極めて高くなったが、カテゴリーはⅠA(CR)に据え置いて新情報に望みを託した。九州中部では熊本県阿蘇地方と共に、孤立した分布特性から生物地理上注目されるためである。絶滅と判断するには未だ数十年の経過を要し、かつて情報不足としたオオルリシジミやヒサマツミドリシジミの再発見の例もあり、今後に期待を込めたい。
また、ホンサナエほかのトンボ目、ホッケミズムシほかのカメムシ目、ミズスマシ各種やゲンゴロウ類、ガムシほかの流水系・止水系の水生昆虫、アオヘリアオゴミムシやハネカクシ科ほか湿地性昆虫など、今回追加した多くの種群の生息環境はこの10数年の間に急激に悪化した。
ヒメシロチョウをはじめとする草原性の昆虫類の生息地も多くが失われている。
これらの要因として各種の開発、生活排水に含まれる洗剤など界面活性剤の影響、さらに農薬に含まれるネオニコチノイドの影響、放牧地の放棄や耕作地の荒廃など里山環境の喪失、地球温暖化による生態系の異変も考えられる。近年の環境変化は多様で複雑な人類社会の影響が著しいと憂慮させられる。
6 その他特筆すべき事項について
カワラハンミョウ九州亜種(カワラハンミョウ)、スジゲンゴロウ、ツメアカナガヒラタタマムシの3種は半世紀以上も再確認できないために野外絶滅と認めた。
クロイソハネカクシなどイソハネカクシ属4種は佐賀関半島黒ガ浜の礫浜海岸の汀線の地下浅層に生息し、国内では各種が孤立して生息しており、学術的に極めて貴重であるため(Ono & Maruyama, 2014)、各種ごとに絶滅のおそれのある地域個体群LPとした。
7 参考文献等
昆虫全般の和名・学名
平嶋義広(監修)(1989)日本産昆虫総目録,九州大学農学部昆虫学教室・日本野生生物研究センター.
伊藤修四郎 他(1977)原色日本昆虫図鑑(下),保育社.
川合禎次・谷田一三(共編)(2018)日本産水生昆虫【第二版】,東海大学出版会.
安松京三(1965)原色昆虫大図鑑(I~III巻),北隆館.
トンボ目の和名・学名
石田昇三 他(1988)日本産トンボ幼虫成虫検索図説,東海大学出版会.
浜田康 他(1985)日本産トンボ大図鑑,講談社.
カマキリ目の和名・学名
日本直翅類学会 編(2016)日本産直翅類標準図鑑,学研プラス.
カメムシ目の和名・学名
安永智秀 他(1993)日本原色カメムシ図鑑,全国農村教育協会.
安永智秀 他(2001)日本原色カメムシ図鑑第2巻,全国農村教育協会.
安永智秀 他(2012)日本原色カメムシ図鑑第3巻,全国農村教育協会.
カメムシ目・コウチュウ目の和名・学名
中島淳・林成多・石田和男・北野忠・吉富博之(2020)日本の水生昆虫,351pp.文一総合出版.
コウチュウ目の和名・学名
藤田宏・平山洋人・秋田勝己(2018)日本産カミキリムシ大図鑑(Ⅰ),有限会社むし社.
木元新作 他(1994)日本産ハムシ類幼虫・成虫分類図説,東海大学出版会.
森正人他(1983)図説日本のゲンゴロウ,文一総合出版.
森本桂 他(1984・1986)原色日本甲虫図鑑(I~IV),保育社
日本環境動物昆虫学会(2009)テントウムシの調べ方,文教出版.
大桃定洋・福富宏和(2013)日本産タマムシ大図鑑,有限会社むし社.
鈴木茂(2022)日本列島の甲虫全種目録,https://japanesebeetles.jimdofree.com(2022年2月閲覧)
大林延夫・新里達也(2007) 日本産カミキリムシ.東海大学出版会.
柴田泰利・丸山 宗利・保科英人・岸本年郎・直海俊一郎・ 野村周平・Volker Puthz・島田孝・渡辺泰明・山本周平(2013)日本産ハネカクシ科総目録(昆虫綱:甲虫目),九州大学総合研究博物館研究報告. 11, 69-218.
ハチ目の和名・学名
内藤親彦・吉田浩史(2006)ハバチ・キバチ類(ハチ目広腰亜目)の絵解き検索ー環境アセスメント動物調査手法16-,日本環境動物昆虫学会.
チョウ目の和名・学名
井上寛 他(1982)日本蛾類大図鑑(I~II),講談社.
白水隆 (2006) 日本産蝶類標準図鑑. 学研.
駒井古実 他(2011)日本の鱗翅類,東海大学出版会.
若林守男 他(1976)原色日本蝶類図鑑,保育社.
イソハネカクシ属4種について
Ono, H. & Maruyama, M, 2014. Five New Species of the Intertidal Genus Halorhadinus Sawada, 1971 (Coleoptera, Staphylinidae, Aleocharinae) from Japan. ESAKIA, (54): 41-50.
その他の参考文献
黒佐和義, 1949. 四國及び九州より新發見の龍蝨7種 附.大分縣産龍蝨目録. 近畿甲蟲同好會會報, 4(2): 5-10。
大分昆虫同好会, 2011~2021. 二豊のむし, (49)~(59)
レッドリスト
新旧対照表
※ページ内のカテゴリー表記については
こちら をご覧ください。