種子植物

1 種数等について

「レッドデータブックおおいた」(2001)に掲載された種子植物(変種を含む)は606種。その後2010年には652種を掲載している。 今回はそれまで調査対象種とされたものに加えて、新たに県内に自生していることが確認された種も含めて対象種として調査を行った。その結果、絶滅危惧IA類(CR)を82種、IB類(EN)を178種、Ⅱ類(VU)を225種、準絶滅危惧(NT)を126種、情報不足(DD)86種の計697種を選定し、生育状況不明の3種、母種に統合するなどした5種を登載種から除外した。「レッドデータブックおおいた」(2022)に登載した種は697種となった。 ※県内分布に記載されている地域名は大分県野生植物地域区分(荒金正憲:1998)に従った。

2 選定種に追加した種について

今回、レッドリストの絶滅危惧IA類(CR)が2種、IB類(EN)が7種、Ⅱ類(VU)が17種、準絶滅危惧27種(NT)が加わり、新たに53種がランク付けされた。 2011年以後、大分県で分布が確認され、その生育状況や個体数などからリストに登載した種はクジュウナミキ、ホンゴウソウ、ウエマツソウ、アズマナルコ、トサコバイモ、イワザクラ、エゾスズラン、トモエシオガマ、コケイランモドキの9種。また、前回の「レッドデータブックおおいた」で登載を見送った種で、この10年間に生育地や個体数の減少が見られ、絶滅危惧種や準絶滅危惧種にリストアップしたものがアマモ、カキラン、オオヤマレンゲ、ナベナ、ハバヤマボクチ、オケラなど44種。野生絶滅から再確認した1種を加え、新規に54種を登載した。

3 新たに生育地が見つかった種について(10種)

記録はあるが、その生育地が不明であったり、かつて確認されていた生育地が自然災害や土地の改変などで、その生育が確認できず情報不足(DD)とされていた種のうち、調査の結果、新たな生育地が見つかり、ランクが与えられた植物はガンゼキラン、シコクヒロハテンナンショウ、オオヤマサギソウ、ヒトツボクロ、ミズトラノオ、ハクサンボクなど10種。

4 ランクを上げた種について(12種)

引き上げの要因は、環境変化による個体数の減少と採取圧によるものである。オキナグサは県内の日当たりのよい草原に散在するが、生育地は狭く、個体数は少ない。草原の植生の遷移や、人による採取が絶えず消滅した生息地もあり、ランクをⅡ類(VU)からIB類(EN)へ引き上げた。

5 ランクを下げた種について(13種)

ツクシオオガヤツリ、アカササゲ、エビネ、タシロラン、ツチトリモチ、ホタルカズラ等13種は今回の調査で前回より多くの生育地を確認できた。ランクの引き下げは個体の増加というより、多くは綿密な調査により新たな生育地を確認した結果である。

6 情報不足(DD)とした種について(86種)

かつて生育を確認していたヤマトボシガラ、リュウノヒゲモ、ホッスガヤ、ミクリガヤ、ミヤマウコギの5種はその生育地の多くが水辺であったり、奥山の崩壊地であって環境変化が著しく生育を確認できなかった。マルバノイチヤクソウとみられる種は2か所で確認されたが、同定にいたらなかった。「レッドデータブックおおいた」(2011)に登載した80種を含めて、生育状況の把握が困難であった86種を情報不足(DD)とした。

7 ランク外とした種について(8種)

ユキモチソウ、メノマンネングサ、ナンゴクミツバツツジの3種は、栽培逸出や同定の誤認や分類学の進歩によって他と同一種とされた可能性が生じ確認のしようがない。さらに、現時点で分類の位置づけが困難な3種をランク外とした。 ケハンノキ、ケナシヤシャビシャク、ケナシイワアカバナ、オオホソバトラノオはいずれも変種で、識別が困難なためそれぞれ母種に統合した。ナガバジュズネノキ、ニセナガバジュズネノキはいずれもアリドオシの変種だが、中間型もあって双方の識別は難しく、ナガバジュズネノキとして評価した。

8 その他特筆すべき事項について

2021年の報告でかつて県北部地域に生育していて野生絶滅とされたツクシカイドウ(バラ科)については、中津市本耶馬渓町に生育していた近縁種を採取してDNA鑑定を行った結果、ツクシカイドウと判定されたので、再度絶滅危惧ⅠA類(CR)として登載した。生育環境、生育地が限られていて個体数も少ない。

9 参考文献等

  • 大井次三郎(1978)日本植物誌 顕花篇.至文堂.
  • 初島住彦(2004)九州植物目録,鹿児島大学総合研究博物館.
  • 北村四郎・村田 源・堀 勝(1974)原色日本植物図鑑 草本篇(上・中・下).保育社.
  • 北村四郎・村田 源(1979)原色日本植物図鑑 木本編(Ⅰ・Ⅱ).保育社.
  • 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・亘理俊次・富成忠夫(1982)日本の野生植物 草本篇(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ).平凡社.
  • 佐竹義輔・原 寛・亘理俊次・富成忠夫(1989)日本の野生植物 木本篇(Ⅰ・Ⅱ)平凡社.
  • 大分県植物誌刊行会編(1989)新版大分県植物誌.大分県植物誌刊行会.
  • 大分県植物研究会編(1991~2021)大分県の植物.大分県植物研究会会誌,№1~31.
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